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「ラージでは“硬式のプライド”を捨てないとダメ」全日本ラージ準V・神山峻が語る〈前編〉

2024年10月17日

 9月に開催された第7回 全日本ラージボール選手権一般男子シングルスで、初の決勝進出を果たした神山峻(神山PPC)。初出場となった前々回大会ではベスト8に進出するも、前回大会は欠場。2年ぶりの出場となった今大会で準優勝という成績を残した。2度目の全日本ラージ出場で決勝進出を果たせた要因、ラージを始めた理由、ちょっと異質な卓球観など、「神山峻」とは何者かに迫るインタビューを前編・後編に分けてお届けする。

卓球を仕事にしている人間として、そういうものには乗って行かないといけないなと

●─まず、2年ぶりの全日本ラージ出場で準優勝という成績でしたが、そのことについて成長や手応えみたいなものは感じますか?

神山峻(以下:神山) 手応えというよりは「うまくいったな」という感じでした。以前はプレーが攻め一辺倒だったけど、今は「ちゃんと守らないといけないな」と考えていて。2年ぶりに出場する中で出てくる選手、上位に進む選手の顔ぶれも変わっていて、攻めるだけでは勝てないと思っていました。年齢(34歳)は言い訳にできないけど、20代の選手と打ち合って勝つのはキツいし、そこはちょっと妥協というか、捨てるものは捨てて、ラケットも感覚的には不安だけど我慢して戦いました。
 実際に全日本ラージでも守らないといけない場面が何回かあって、それを切り抜けられたのは、そういう準備もあるし、意識の部分で自分を変えてきたからだなとは思います。そこが「うまくいった」という感じです。

●─ラケットの話も出ましたが、『KRATOS』を使用していましたね。

神山 『ハイブリッドAC インサイド』『MK7』も試したけど、全日本ラージに向けて『KRATOS』に変えました。正直、『KRATOS』は攻撃だと飛びすぎて少し不安もあります。でも、相手のドライブに対するブロックが安定するんです。さっきも話しましたけど、トーナメントを勝ち上がるうえでは守りも大事で、それを優先して『KRATOS』で行こうと決めました。

●─決勝は池田亘通選手(Infinity)に敗れましたが(0-2)、2年前の全日本ラージの準々決勝でも対戦しています。

神山 (池田とは)2年前の全日本ラージで対戦する何カ月か前に練習試合をしたんです。その後に全日本ラージで対戦してみたら「全日本ラージの池田亘通ってちょっと違うな」と思いました。そこに向けての仕上げ方、照準の合わせ方が一段違うステージにいる感じ。2年前もそう感じたし、今年の決勝でも同じように感じました。それまで効いていた小細工が通用しなかった印象です。彼に勝つにはその基礎力を上回る必要があるんだなと思いました。

●─2年前に初めて全日本ラージに出場してベスト8に入って、昨年は出場していませんでしたよね?

神山 そうです。一昨年出て、昨年は出場せず、今回が2回目の出場です。昨年は推薦で出場できたんですけど、その頃は小・中学生、ジュニアの指導を結構やっていて、全日本ラージとジュニアの大事な試合の時期が被ってしまったんですね。卓球コーチを仕事にしていて、ジュニア指導がその時はメインのひとつだったので、それを切ってまで全日本ラージに出場するのは仕事のバランスとして良くないと思って欠場しました。去年の終わりくらいから、ジュニアの指導を他のコーチが担当してくれるようになって、ぼくは少し手を離せるようになったので、今年からまた全日本ラージにトライできるようになった感じですね。

●─そもそも、どんなきっかけでラージを始められたんでしょう?

神山 3年くらい前、31歳の時に始めました。当時、ラージの盛り上がりを感じたんです、「若い人がやりそうだな」って。その頃、わったくん(池田)と仕事で会ったんですね。その時に「ラバーを開発する」と言っていて、それが『リンフォート』シリーズだったんですけど、それを聞いて「これは若い人がやる時代が来るだろうな」と思ったんです。卓球を仕事にしている人間として、そういうものには乗って行かないといけないなと(笑)。
 その頃ってラージをメインに発信している人たちって、わったくんの他、少ししかいなくて、いろんな人が参入する前にポジションを確立しようかなと。それでうまいこといったかなという感じです。

●─神山さん自身、高校(愛工大名電)、大学(筑波)と強豪、名門でプレーされてきたわけじゃないですか。

神山 そうですね、学校としては。

●─そんな神山さんでも、実際にプレーしてみて、ラージの難しさってありました?

神山 それはありますね。まず、ある程度は「硬式のプライド」って捨てないとダメだと思うんですよ。特に名門校でやっていた自負みたいなものが強いと、逆に勝てないのかなと思います。
 硬式とラージで技術的な切り替えもしないといけないし、メンタル的な切り替えもしないといけない。メンタル的な切り替えは硬式をどっぷりやっていたほど難しいと感じていて、その難しさを乗り越えられずに、ちょっとラージをやって、そこでやめてしまう人も多いのかなと。ぼくの場合は仕事として「ラージをやるべき」と思ったので、そこで他のものを捨ててでも、ラージを力を入れてやろうと思った感じですね。あとは難しさは感じましたけど、性格的には合っているかなと感じました。

●─性格的に。

神山 ラージは我慢しないといけない部分も多いじゃないですか。硬式よりもプレーがシンプル化されていくので「この後こういう展開になっていくだろうな」というのも予想しやすい。そういう部分も含めて性格的に合っているかなと思ったので、やれそうだし、やるべきだなと思いました。(後編へ続く)

【PROFILE】
神山峻(かみやま・しゅん)

栃木県出身。実践学園中、愛工大名電高、筑波大で各種全国大会に出場。社会人となってからも全日本社会人や全日本実業団へ出場し、2019年クラブ選手権一般1部で3位に入賞。現在は指導者として活動しながら全日本ラージボール選手権に出場し、2022年大会一般男子シングルスベスト8、2024年大会では一般男子シングルス準優勝という成績を残す。個人レッスンなどはこちらから→https://linktr.ee/kanan8sk

〈神山峻・使用用具〉
ラリーでの安定感、攻守のバランスを重視

 『KRATOS』はしっかりボールが飛んでくれるためネットミスが少なく、ブロックが安定します。弱いタッチでも飛距離が出て、コート深くに入ってくれるので、守る展開からでもラリーを組み立て直すことができる。ラージボール特有のナックル性のボールも安定して打てます。
 『リンフォート パワー』は他のラージボール用ラバーと比べても弾むラバーですが、それでいて安定性が高く、ラリーを作りやすい。『KRATOS』との組み合わせは、ラリーでの安定感、攻守のバランスを重視する選手に合っていると思います。(神山)